へいこうな毎日!

理系学生がつづる日々のこと。化学や教育、ゲーム音楽に興味あり

化学のお話【高校化学で気づけないこと】

今回はタイトル通り、高校化学ではなかなか気づくことができない「大学の化学」を書いてみる。これは同時に、いま私が置かれている状況を書いているので、あくまで私見・主観で満ち溢れている。

ただ、一人の学部生がどのような状況になっていて、何を考えているのかを書くことは、もしかしたらたまたま高校生なんかが見つけてくれた場合何かしらの参考になるのではないかと期待している。同時に、すでに化学の道を歩まれている方々には批判をいただきたい・・・などとネットの片隅で叫びつつ、早速本題に行きたい。

 

座学と研究(実験)は想像以上に・・・・

多くの大学で本格的に「卒業研究」が始まるのは学部三年後半からと思う。それまで、学生実験や大学によっては特別研究のような位置づけで実験環境に身を置く機会はあるが、基本的には座学がメイン。

 

大学で学ぶ「化学」を大きく分けると無機化学・有機化学・物理化学・分析化学の四つ。さらに、環境化学やこれらの分野の狭間に位置するいわゆる学際分野を学べることがほとんどである。こういった科目は学部学科によって特殊な講義が設定されていたり、何を重視しているかで内容・講義名が違うことがある。

高校では物理化学の初歩が化学Ⅱ(旧課程)で扱われ、分析化学は各分野の定性分析で垣間見る。理論化学・無機化学・有機化学の三つを学び、実験については高校によっては全くすることがない。

 

化学系の学科では「卒業研究」を必修としているところがほとんどである。上記のことから考えられるように、理論を学ぶ座学の期間は十分であるものの、実験それ自体に触れる機会は非常に少ないと言える。

実験の知識や所作は学部教育中もしくは研究室に所属した段階で教わる。後者の場合は自分の研究をやりながら慣れていくものの、経験を通して実験のスキルを身に付けいく。大多数の学生は多かれ少なかれミスをしつつも、無事に卒業していく。

 

ここまでで大学と高校の化学をざっとまとめてみた。

イメージしやすい座学では、大学に進むと分野がしっかり分れ教養に値する学際科目も学べる。しかし、大学によるものの高校から続く実験の経験不足が解消しにくいのでは、と考えられる。

では、この実験というのはどういうものかをなんとか説明してみる。

 

実験を農作業に変えてみる

座学が好きで化学科に行っても、実験で困ることはおおよそないと思える。なぜならそれを会得するための講義と環境がそろっており、経験に優れた教授が指導教官となるためである。しかし、そういった実験がどういったものなのかは高校の時点ではあまり気づきにくいのではないだろうか。同じく、学部低学年でも・・・。

そこで、今回は自分が行っている実験の復習がてら一連の作業を紹介する。分野でいえば有機化学になるため、どの分野にも適応できるわけではないが、ひとつの流れとしては多かれ少なかれ共通しているものと考えている。

実際に実験をやってみたいと思えるかどうかの判断材料として、また偏屈な学部生の戯言としてどうかお付き合いください。

 

①反応を仕込む(畑に種をまく)

「AとBを反応させる」のであれば、当然AとBが必要になる。それを量りとり、自分で決めた条件で反応をさせる。仮にAが有毒であれば適切な扱い方が必要であるし、試料の量や使った容器の重さはその後必要となるため、逐一データを取る必要がある。

 言い換えれば・・・・畑がどれぐらいの大きさなのか、まいた種はどのぐらいの量でどのように扱わないといけないのか。種から得られる果実はどれぐらいのものと予想されるのかといったことをこの段階で求め、水をやったりビニールハウスに入れたち、はたまた光を当て続たりする。こういった慎重な事前準備を怠れば、その実験(畑)の信ぴょう性は落ちることだろう。

 

②反応を見守る(芽の観察・保護)

こうして進んだ反応中、色や形、性質の変化がどうなっているかを細かく観察し、反応が進んでいなかった場合の対処や、反応が進んでいる場合の挙動の把握を確認しなければならない。ここでの対処はそれまでに学んだ座学はもちろんであるが、経験からわかっているものの座学では判断できないある意味初歩的な内容から予期せぬ事態まである。

畑では、葉が急に黄色くなったりしたらそれなりの対処が必要であるし、種から青々とした葉芽が出れば順調だと言える。

 

③生成物を取り出す(収穫)

 生成物ができた!はい、おしまい!・・・というわけにはもちろんいかない。この段階では生成物だけでなく、未反応の原料や副生成物が混ざっている。これらを取り除くために分液や蒸留などを行い、なるべく生成物のみを残す。容器から容器へ移し替えるときはリンスという、同じ溶媒で洗い出すことで一滴の残りもきちんと移し替える。こうした作業で生成物を残さず収穫し、次の作業である同定に移るわけだが、ここまでの作業で実は3~5日かかることもある。

 

④生成物を見極める(同定)

 収穫したモノが、本当に得たかったモノなのか、見極める作業がある。高校化学では「白金線に付着させて炎で・・・」や「塩酸に入れた時の沈殿で・・・」という風な(定性)分析を習う。大学では分析を優れた機器で行う。NMRと言われる機器は構造中の水素の位置を割り出すのに利用される。「機器分析」と言われる手法だが、複数の機器・分析法を組み合わせて最終的に何ができたのかを判断する。

トリカブトニリンソウの違いを同定せずに、畑や山から採ってきたまま食べないように、化学でも細心の注意を払っている。

 

 

以上四項目が大体の流れである。同定を行った生成物を用いて別の反応を起こす場合はこの手順を繰り返すことになる。生成物がどれだけ機能を持っているかを評価することも多い。

こういった作業につきものなのは、器具を使いこなす・準備する・適切に洗いかたづける、という「おままごと」とも思える作業。危険な物を扱うこともあれば器具を痛める物質もあるため、慎重な姿勢と知識が求められる。

 

個人的には化学は理系の中でも理論と実験が同時に高いレベルを求められていると考えている。ある側面では頭をフルに回転させ、違う面では体を巧みに使う職人となる。

 

 

今回の【高校化学で気づけないこと】は以上。こうした文章を書くことがなかったので、どのように伝わったかわからない。コメントなどいただければ幸いである。